●シタール三木の『幽玄な響き』
F組・森 能文
どこかで聞いたようなタイトルですね、つまりは先月号のタイトルのパクリです。
…が、パクリはともかく今回の内容はまさにこのタイトルがふさわしい内容でした。
我々の世代にとってシタールの音色といえば、なんといってもビートルズの「ラバーソウル」や「リボルバー」等のアルバムでジョージ・ハリスンが演奏しているを聴いたのが最初の出会いなのではないでしょうか。
そして、その後、ヒッピー・ムーブメントとも結びついてインドやネパールに対する関心が高まるとともに、ラヴィ・シャンカルのような本格的なシタール奏者の活躍もあって、世界的にインド音楽のブームがあったものでした。
ですから、多分、私たちにとってはシタールという楽器の音色を聴いたり、その演奏風景をテレビ等で観ることなどはそれほど縁遠いものではなかったと思います。
とは言っても、絶対的に演奏者の少ないこの楽器の演奏を、真近に見聴き出来る機会ってのはそうそうあるものではありません。かくいう私も今回が生まれて初めての経験でした。
初めて真近に見るシタールという楽器の民族楽器ならではのメンテナンスの難しさ、そして演奏される音楽の複雑さは想像をはるかに超えたものでした。当日、見聞きしたことを的確にお伝えする能力は私には到底ありませんので三木君のシタール仲間でもある辰野基康さんのHP http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/
などを参照させてもらいながら、この楽器と三木君の演奏についてレポートしてみまたいと思います。
早々と会場に入り生臭会の準備に忙しいであろう三木(有馬)、橘川(西尾)のお二人をお手伝いする、という良い子ブリっこするため午後3時には東神奈川駅に到着。写真で見るスカイハイツトーカイはなぜか外壁の中段付近に腹巻きのようなものが見えるのが不思議でしたが、現場についてその理由が判明。このマンションは現在外壁等のメンテナンス工事中で、腹巻きのようなモノは、屋上から吊られた移動式の足場だったのです。
そんな訳で、工事現場のおっさんたちが頻繁に出入りしているため、肝心のオートロックのドアもほとんど出入り自由状態でした。でも、私はどうしても「25回はナンバー1」ってボタンを押してみたかったので、インターフォンの所で2501をプッシュ。三木君の応答に応じていざ最上階へ。
『天空の城-ラピュタ』ならぬ、天空の寺「高明寺」へ足を踏み入れます。遠めにベイブリッジを見下ろす窓からの眺めはまるでランドマークタワーからの眺め。なんともシュールなお寺です。女性お二人の他に私より先に到着していたのは、はるばる埼玉から会社を経由して製品のヨーグルトをどっちゃりと手みやげに駆け付けた塙君。彼いわく「こんな高いところに居て日々下界を見下ろしていると、尊大な気持ちをもった住職になっちゃうんじゃないかな?」
さて、建前とは裏腹にお二人のお手伝いなど一切せぬまま、私の興味はなんといってもとても珍しいシタールの方に行ってしまいます。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/whats-sitar/zukai/kakudaiz.htm
両端に瓢箪製といわれる共鳴胴が大きく膨らんだその形は写真などで何度か見たことがありましたが、本物を目の当たりにしてまず目を引くのは、やはりその弦の数です。なんと、主弦7本+共鳴弦13本の20本ということ。
そして、主弦7本は円弧状のフレットの上にあって、演奏中に弾きますが、共鳴弦13本はフレットの下にあり、演奏中には一切触れません。つま弾かれた上の弦の音に共鳴して鳴るだけなのです。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/whats-sitar/genno-harikata/kyoumei-.htm
上の7本の弦もギターなどの弦とは全く違った役割をします。つまり演奏中につま弾いてメロディーを奏でるのはその内の1本だけ。他の弦は通奏音を出し続ける(丁度バグパイプのドローンパイプの役割)弦と時々リズムを入れるために弾くリズム弦ということ。つまり、シタールでは《和音》は演奏しないのです。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/whats-sitar/genno-harikata/syugenn-zu.htm
弦についてだけでもこんな感じですが、私の説明だけではとても全体像がつかめないと思うので、どうぞ下のアドレスを訪ね、青い文字の部分をクリックして詳しい説明や図を御覧になってください。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/sitar01.htm
どうですか? 一応、シタールの構造が概ねお分かりでしょうか。
三木君の説明によると、このシタールという楽器のメンテナンスで最も大事なのはジャワリと言われる鹿の角でできた駒の調整とのこと。このジャワリ、なんとも不思議なのは他の弦楽器の一般的な駒とは違って、弦を一点で支えようという発想ではないこと。面で支えて、その微妙な角度で面と弦が擦れることによって発する音色が重要だというのです。実際、シタールの維持で一番重要な事はそのかすかな隙間をいかに保つかという事だそうです。そして、一旦良い状態になったとしても、演奏している間に次第に削れてしまうのでまた調整しなくてはならなくなるそうで、さらにその調整は非常に高度な技術が求められるということです。
また、後ほどの演奏の際にも説明がありましたが、シタールの音楽には72(?)の音階があるとかで、それぞれの音階に応じてチューニングをし直す必要があり、そのためには糸巻きを調整するだけでなく、いくつかのフレットを移動するのです。ですから、フレットは棹に固定していいるのではなく、紐で結わえてあるだけです(!)。
糸巻きも穴にテーパーをつけた棒を突っ込んであるだけですから、すぐに緩んでくるので頻繁に調整しなくてはならないとのこと。
あ〜、もう話を聞いただけでも気が遠くなるような思いがしました。
さて、いよいよ三木君が楽器を手にします。
まずは楽器の構え方からして普通の楽器とは全く違います。なんと、それ自体がヨガのポーズとのこと。足を交差させて左足の足先の上に胴を乗せ、棹を抱きかかえるように構えます。後ほど、そのポーズをとろうとしてみましたが、元体操部であるくせして体が堅い私には三木君がやっていたように足を組むことすらできませんでした。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/how-to-play/beginer-sitar/kamae.htm
メロディー弦をつま弾く右人さし指には鋼線でできた爪を着けます。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/whats-sitar/bihin/bihin.htm
後で、着けさせてもらいましたがこれがなんとも痛い!
さらに、スチール製の弦を押さえる左手の指も、弦を押さえるだけで切れてしまいそうで痛い!(三木君も、指が切れずによく滑るようにワセリンのようなものをたびたび付けていました)
三木君曰く、「この《痛さ》に慣れるのがまず第一。」とのこと。
う〜ん、ここまで読まれてきてお気付きの通り、この楽器は絶対的に「マゾヒストの楽器」ですね。
さて、演奏に入る前にラーガ(旋法)やターラ(拍節法)について説明がありました。
それぞれのラーガは夜のラーガとか、夜明け(3〜6時)のラーガとか、一年の内ある時期に弾くラーガ、という様に時刻や季節に応じて厳格に定められているという話。また、4拍+4拍+4拍+4拍=16拍のリズムだとか、もっと言えば64拍のリズムまであること。また、16拍と11拍を同時に進行させて16拍の2巡目(つまり32拍目)の後に11拍の3巡目(つまり33拍目)が来て元に戻ってくるのが、どうたらこうたら…。
極めつけは「音が鳴っている間は本当の音楽ではなくて、音が無くなった時が本当の音楽である、という考え方がある」というような、まるで禅問答のような話も出てきて、仕舞いには何がなんだか分からなくなりました。
まあ、その内容はとても一回聞いただけで理解できるようなものではありませんので、私にはうまくお伝えできません。興味のある方は次に参考となるようなサイトのページを紹介しますので目を通してみて下さい。でも、読んでもますます分からなくなるかもしれませんが…。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/sitar-nituite/ind-ongaku/ind-ongaku.htm
http://www.sehouse.co.jp/jap/center2.htm (民族音楽センター)
http://homepage2.nifty.com/naada/ (ナーダの贈り物
J.I.N. Music Association)
とは言っても、実は三木君自身はインド音楽初心者である我々に対して非常に親切で、例えばリズムの話をする時には、タブラ(太鼓)を使って分かりやすく説明してくれました。タブラはシタールの伴奏などに使われる木や金属の胴にヤギの皮を張った大小2つセットの太鼓。打面に工夫がしてあって叩く部分によって様々な音色を出すことができ、単なるリズム楽器を超してメロディー楽器に近い役割を果たすことが出来るという高度に発達した太鼓です。
実は、三木君は元々このタブラを演奏していたということなのです。では、何故シタールを演奏するようになったかというと、ある時、タブラを習うためにインドのあるタブラ奏者のところに出向いたところ、なんとその奏者がその前日に死去していて、三木君は彼の葬式に出くわしたそうです。…で、事情を聞いた他のタブラ奏者が代わって三木君にタブラの手ほどきをしてくれたそうですが、その人が「お前はシタールもやるべきだ」といってシタールの演奏を教えてくれるようになり、それ以来彼もシタールを演奏するようになったということです。
さて、いよいよ演奏です。この日は結局3曲聴かせてもらいました。最初に、その曲で使われる音階を弾いてみせてくれた後、曲に入りました。本来は各々の曲とももっとずっと長くバリエイションを即興で展開していくということですが、初心者の我々を前にして、適当に聴きやすい長さに(10分程度?)で終えてくれたようです。後でいろいろなサイトの説明を読んでみて、多分アーラープ(これから演奏するラーガを提示するイントロ的なフリー・リズムの部分)からジョール・アーラープ(アーラープよりリズミカルで、より自由にアドリブを展開する部分)のサワリの部分だったのではないでしょうか。
前に話した通り、1曲終わる毎に各々のラーガに合わせたチューニングが必要になる訳で、糸巻きを調節したりフレットを移動させたりと、見ているだけでも大変さが伝わります。
でも、1曲、2曲と進むに従って、我々の耳もこの特殊な音楽になんとなく慣れてきたのか、だんだんメロディーの展開が理解できるようになりました。特に最後の3曲目では徐々にスピードアップしてくるエキサイティングなバリエイションの部分まで演奏してくれたこともあり、感動のフィナーレ!って感じで大いに盛り上がって終焉を迎えました。
いや〜、演奏しはじめて15年という年期の入った三木君のシタール演奏。なんとも素晴らしいものを聴かせてもらいました。
いつか、ゆったりとした気分で野原に寝そべって、吹き抜ける風に乗せて何時間でも延々と演奏を聴かせてもらえたらどんなに快楽だろう、という気持ちを強く持ちました。
三木君、本当にありがとう!
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